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黒竜と宝珠の出会うとき ―アリシアとの出会い―

「まずいな・・・」
 鬱蒼と生い茂る深い樹林。降り注ぐ豪雨の中、少年は舌打ち混じりに呟いた。
 首筋で束ねた、腰まで届く漆黒の長髪と同色の双眸。雨にぬれた肌は雪のように白くきめ細かい。見る者によっては少女と見紛うような細い体躯は闇色の外套に包まれ、深夜の森に溶け込んでいる。
 少年は一度、自分の後方を振り返ると、再び闇の中へと消えた。



「・・・ん」
 薄暗い部屋の中、少女は眼を覚ました。小柄な体躯と幼さの残る顔立ちは、十代前半を思わせる。
 まだ覚醒しきってない意識の中、少女は蒼く澄んだ瞳を部屋の入り口へと向ける。
 誰もいない。誰か来る。確固たる予感を胸に、少女は純白のドレスに包まれた身体を起こした。


 薄暗い、石造りの古い遺跡の中、少年は壁に背を預け天井を仰ぐ。雨の中を駆け抜けてきたため、ブーツは泥にまみれ、全身からは水滴が滴り、右脇腹からは鮮血が溢れ出している。
 外套の下、漆黒に染め抜かれた皮鎧が防刃シャツごと裂け、朱に染まっている。傷口を押さえる左手の下からは今なお血が流れ出て、雨水と交わり真紅の水溜りを作っている。
(致命傷ではないが・・・出血が多い)
 失血死の危険は薄いが、意識を失う可能性は高い。彼のおかれた状況は、それは即ち死に直結することになる。
 どうするか。と思考を巡るが、即座に中断。漆黒の双眸が遺跡の奥の闇を映す。
(呼んでいる・・・誰が・・・?)
 動けば出血を促し、意識喪失に繋がるのは明白だ。だがそれでも、彼は奥へと足を進めた。



 紅の足跡を残しながらたどり着いたのは、重厚な観音開きの扉だった。少年はそれに手を掛け、ゆっくりと開く。
 薄暗い部屋。その中に浮かび上がる白い影。純白のドレスに身を包み、燃えるような赤い髪を後頭部で纏めた少女がゆっくりと振り返る。
「・・・!」
 少年はその姿に、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに頭を振って否定する。
(髪も瞳の色も違う・・・それにあいつはもう・・・なぜ見間違えた・・・?)
 対して振り返った少女は一瞬頬を染めると、人懐っこい笑みを浮かべて歩み寄る。
「はじめまして!私はアリシア・ノース。剣の花嫁だよ!きみが私の契約する人?」
「・・・は?」
 アリシアと名乗った少女に、少年は気の抜けた言葉を返す。剣の花嫁、契約。聴きなれない言葉の意味をかんが思い出そうとした瞬間。
「わ、ちょ!」
 左肩から地面に倒れこみそうになり、アリシアに支えられる。が、体格差をとめることができずに、そのまま地面に倒れこむ。
「いたた・・・どうしたのさいきなり・・・って!すごい怪我・・・まって、今治してあげるから!」
 言うが早いか、アリシアの手が傷口に添えられる。
「万能なる力よ、彼の者の傷を癒したまえ・・・ヒーリング!」
 詠唱と共に柔らかな光が傷を癒していく。その光景を見て、少年は思い出す。
(剣の花嫁・・・シャンバラとかいうところの住人か・・・)



「へー、じゃあ焔は傭兵で、紛争の沈静のために戦ってたんだ?」
「あぁ・・・敵は殲滅できたんだが、生き残りの撃った弾丸をもらってな。追撃を逃れるためにここにきた」
 アリシアの言葉に、焔と呼ばれた少年が苦笑混じりに返す。
「でも・・・大変だね、妹さんも亡くなっちゃったんでしょ・・・?」
 アリシアは自分の名前と一つの景色以外まったく覚えていないこと。いつからかここで眠っていたこと。自分のわかる限りの生い立ちをすべて話してくれた。
 焔もまた、自分が傭兵であることや、作戦中に負傷してここに来たこと。そして何より、滅多に話さないはずの自分の妹のことまで話していた。
「なぜかはわからんが・・・おまえが一瞬、あいつに見えた。不思議なものだ」
「そっかー・・・えへへ、これも一つの運命ってやつなのかな?」
「どういうことだ?」
「焔。・・・私は、自分の記憶と居場所を見つけたいの。だから・・・その・・・私と一緒に、探してくれない、かな?」
「契約、か」
 僅かに頬を高潮させ、アリシアが問う。暫し逡巡していた焔は、やがて頷く。
「わかった、おまえの行く先にあるであろうあらゆる困難から、黒竜の名を以ってして守り抜くことを誓おう」
 その答えに、アリシアは満面の笑みを浮かべ、焔に抱きつく。
「ありがと!これで契約成立だね!」
「こんな簡単でいいのか?・・・それと、出血は止まったが傷は塞がりきってないんだ。あまり抱きつかんでくれ」
「あ、ごめん・・・」
 あわてて離れるも、少し残念そうに上目遣いで焔を見やり、「あの・・・」と呼びかける。
 が、二の句は告げなかった。焔は険しい表情で、扉を睨みつけている。
「・・・追っ手に嗅ぎつけられたな」
「え、うそ・・・ど、どうするの?」
 焔は一瞬瞳を閉じ、神経を研ぎ澄ます。聞こえてくる足音と声音は五色。再び瞳を開き、周囲を見渡す。
「アリシア、おまえは隠れていろ」
「焔はどうする気なの・・・?」
「音からして銃が一人、近接が四人。急襲して一気に片をつける」
 言って刀に手を掛け、扉の傍に潜む。
「気をつけてね・・・焔」
 焔は何も言わない。アリシアもそれ以上は何も言わず、寝台の裏に身を潜める。
 やがて扉が開き、槍を持った二人の男と剣を携えた男、手斧を持った男と自動小銃を構える男が姿を現す。
 刹那、潜んでいた焔が飛び出し、鞘走りした刃が一閃。男の持った自動小銃の銃身を両断する。
 突然の事態に慄く男たちの中でさらに銀閃が煌き、槍を持った男の一人の咽頭を貫く。
 真っ先に反応した剣を携えた男が抜刀。側面から焔に切りかかるが、焔は刺し貫いたままの刃を振りぬき、その一撃を受け止める。
 その隙を逃すまいと、もう一人の男の槍が刺し出される。が、半身を捻り回避。同時に受けていた男の剣を流す。
「!」
 一瞬、焔の端正な顔立ちが歪む。同時に手斧がその胴を両断せんと力の限り振るわれる。
 咄嗟に刀を立てその攻撃を受け流すが、無理な姿勢から受けたため、その手から刀が離れ、床に突き立つ。
 焔は即座に後方跳躍。その身を寝台の裏に隠すと、一瞬前まで焔がいた場所を弾丸が抜ける。
「ほ、焔!大丈夫!?」
 アリシアの視線。焔の脇腹からは、鮮血があふれ出していた。先ほど塞いだ傷が、戦闘の中で再び開いたのだ。
「・・・・・・アリシア。俺が隙を作る。その間に逃げろ」
「え・・・?」
「万全の状態ならともかく、血を失った状態でおまえを守りながら、しかも素手で渡り合うのは無理だ」
 焔の言っていることももっともだろう。だが。
「・・・やだ」
 アリシアの口からこぼれたのは否定の言葉。
「もう・・・やだ。大切な人を置き去りにして、自分だけ逃げるなんて・・・」
 それは無意識に、感情が漏れ出しているような言葉。だからこそ焔は何も問わなかった。
「武器があれば・・・いいんだよね?」
 今度は意志の篭った問い。焔は頷く。
「あぁ・・・どんなものでも使えるつもりだが、刀なら一番助かる」
「なら・・・私の力、焔に託すよ」
 言って、焔の手を自分の薄い胸に重ねる。
「わかる?私の中にある力。存在。焔ならきっと使えるはず・・・だから・・・」



「ちっ・・・なんて野郎だ」
 槍を持った男が、倒れた仲間を見ながら悪態をつく。
「手負いとはいえ、やはり竜の名は伊達じゃないみたいだな」
 剣を持った男がそれに同意する。
「だが奴に武器はない。袋のネズミだ」
 手斧を構える男が、焔の逃げ込んだ寝台を睨みつける。
「よし、貴様らは両サイドから回れ。出てこなきゃ俺が撃ち抜いてやるよ」
 自動小銃を切られ、予備の拳銃を抜いた男が仲間に指示を飛ばし、寝台へと歩み寄る。
 お互いに視線を交わし、距離を測り、連携の準備を整える。
「いまだ!」
 拳銃を持った男の声と同時、その心臓を青白い光が貫く。
「な・・・」
 その光は寝台の向こうから伸びている。遅れて、傷口から鮮血があふれ出し、男は意識と命を失った。
 それを確認したかのように、光が寝台の向こうへと消える。
「なるほど・・・任意の物のみを切る能力、か」
 そんな呟きとともに焔と、遅れてアリシアが姿を現す。焔の手には先ほどの青白い光。湾曲したそれは、刀のような形状であった。
「闇をも食らう光の剣・・・漆喰、とでも銘打つか」
「漆喰・・・いい名前だね」
 笑顔で同意するアリシアは焔の外套を纏っている。その下の純白のドレスは胸元が破れ、気持ち程度の膨らみが覗いている。
「さて・・・漆黒の竜帝の御名、その魂に刻み果てろ」
 獰猛な笑みを浮かべ、残った三人の男へと焔が向き直る。そして、



「さて・・・親父たちにどうやって説明するかな」
「ん~?恋人です、って紹介してくれればいいよ!」
「なぜそうなるんだ・・・」
 鬱蒼とした森の中、朝日に照らされながら二人は陣営へ向かって歩いている。
 昨夜の雨であちこちぬかるんではいるが、決して歩けないわけではない。多少時間はかかるが、昼過ぎには目的地にたどり着けるだろう。
「わたた・・・!」
 泥に足をとられ、転びそうになったアリシアの襟首を焔が掴む。
「何やってるんだまったく・・・」
「だって~・・・ずっと眠ってたから、こんな風に歩くの久々なんだもん・・・」
 頬を膨らませてアリシアがぼやく。焔は軽く嘆息すると、その小さな手を掴む。
「あ・・・」
「・・・転んで汚されるのは困るからな」
 遺跡の中で目の当たりにした『漆黒の竜帝』の異名。僅かな畏怖を感じていたが、それ以上の優しさを感じ、アリシアは笑う。
 そして思う。
(私の居場所・・・なんとなく見つけちゃったかも)
 漆黒の竜帝と黒竜の宝珠はこうして出会った。この先にはまだ多くの困難が待ち受けているが、それはまた別のお話・・・
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