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SS企画 ―第五章一篇―

第五章 ―事件の真相― 【合流・最終決戦】

「おーい!宝石が届いたぞー!」
 大手を振って叫ぶ村人の背中を、馬車から降りた未羅とアリシアが追いかける。
「おかえり!怪我はない?」
「無事でよかったよ。何事もなかった?」
「予定よりも遅かったな。して、宝石は?」
 出発前よりもさらに荒れてしまった村の中央で、ティア、エドウィン、リアンが三者三様の言葉で出迎える。
「たっだいまー!見てのとおり、元気だよ!」
「ただいまなの。途中で変な人たちに襲われて遅くなったけど、宝石も無事なの」
「そうそう、焔が颯爽と現れてくれてさー。ね、焔?・・・あれ?」
「いないの・・・」
 アリシアと未羅が交互に状況を説明しながら振り返ると、そこには馬車をひく若い村人しかいなかった。状況を察したらしい村人が口を開く。
「えっと・・・御者さんなら、僕に馬車を預けて、止めるまもなくどこかに行ってしまいました。それと、お二人に伝言を。『おまえ達なら成し遂げられる。自分を信じろ』と」
 その言葉に二人は、道中で焔に聴かされた言葉を思い出す。なぜここに?その問いに、彼はこう答えたのだ。
『予定より俺の仕事が早く終わってな。馬を飛ばしてこっちに向かったんだ。・・・なぜ正体を隠してた、とでも聞きたげだな?おまえたちに限らず、パートナーというのはどうも契約者の影に隠れがちだ。それ故、自分の実力を正しく知らない者も多い。それはいずれ、戦場で死を招くことになる。だからこそ正体を隠して近づいた。結果、おまえたちは俺をただの御者だと思い、あの五人を相手に一歩も退かずに戦った。もっとも、失敗したら本末転倒だから、手は貸したがな』
 リアンが「ともかく」と切り出したため、二人は思考を中断する。
「洞窟に向かった連中もそろそろ戻るであろう。一度集まって情報を纏めるべきだと我は思うが?」
「そうだね。とりあえず、宝石を降ろしましょう。あ・・・重いだろうから、その、女性の方は先に行っててください」
 エドウィンの言葉に、女性陣は早々に最初に集まった酒場へと向かった。自分が緊張するから、という理由をあえて述べなかった彼は、荷台を覗き込む。
「うわ・・・思ったより多いな」
 大人が一抱えするほどの木箱が5つ。一人で運ぶには骨が折れそうだ。そう思い、リアンを振り返る。
「あのリアンさ―」
「面倒だ」
 一蹴された。仕方なく、一人で必死に酒場の裏口へと運び込む。途中で洞窟から戻ったガートナが手伝ってくれなければ、彼はこの後の会議で一言も発せなかったことだろう。




「以上が各チームから得られた情報ですな」
 夕刻過ぎの村の酒場。最初に集まったときと同じメンバーが卓を囲む中、報告を纏めたガートナが言った。今夜は休業ということで、他の村人の姿はない。
「護送班は襲撃に会うもこれを撃退、ただし襲撃者の意図・・・というか正体は不明」
「気絶したまま起きないの」
 未羅の言葉に全員の視線が部屋の隅――縛られた五色のモヒカンたちに集まる。焔の手で気絶させられた彼らは、いまだ目を覚まさない。とりあえず死んではいないようだが。
「次に、調査班は村で待機中にヌシ様と遭遇。エドウィン君が負傷するも、村人に被害はなかったのですな?」
「ごめんね、ボクのせいで・・・」
「だ、大丈夫だよ。大した怪我じゃなかったし、それにほら、ミュールさんがすぐに治療してくれたから・・・」
 うな垂れるミュールを励まそうとするエドウィン。それを見たリアンが呟いた。
「仲がよいのは結構だが、話を続けぬか」
 その言葉にエドウィンが何か必死に叫んでいるが、彼は無視して続ける。
「我らが遭遇したヌシの様子と、村人から得られた情報は先に話したとおりである。ここから予想される答えは―」
「まぁまぁ、結論を出すのは、もう少し後にしませんかな?」
 ガートナが遮る。リアンは「それもそうだ」とだけ告げると静かに次の言葉を待った。
「では最後に、我ら侵入班の報告ですな」
「洞窟内は先ほどご報告したとおり、ただ長いだけの洞窟でした。その深部で発見したものが―」
 それです。と射月が指し示したのは、スナック菓子やインスタント食品の容器など。洞窟内で見つかった人の形跡だった。
「それに、村の周囲では最近、怪しい人影がたびたび見受けられるのだったな?」
「はい・・・この村はあまり外から人が来ることはないので、珍しいとは思ってました。ですが、何かが盗まれたり壊されたりということはありませんでしたし・・・」
 ヴァレリーの問いにアレンが答える。
「しかし、その人影が見受けられる時期と、ヌシ様の奇怪な行動の始まった時期とが重なっているわけですな。つまり―」
「何者かがヌシ様を騙り、村人から金品を巻き上げようとしている。と考えるのが妥当ですね。といっても、決定的な証拠はありませんが」
 ガートナの言葉を射月が継ぐ。
「なんというか・・・あまりにもありきたりなパターンじゃのう」
 ミュールの呟きに、その場に集まった全員が同意した。
「ですが、これはあくまで可能性です。何か決定的な証拠があればいいのですが・・・」
 射月の言葉ももっともだ。怪しいという可能性だけで、件の人間を捕らえるわけにはいかない。若干一名「気にせず捕らえればよいではないか」などと言っているが。
「証拠か・・・我に良い考えがある」
 全員の視線を受け、リアンが己の予想と、それに対する作戦案を説明する。
「ふむ、良い考えですな。では、その作戦で行きましょう。ミュール君、頼みますぞ?」
「うむ、わらわに任せておくのじゃ!」
 ガートナの言葉にミュールが満面の笑みで頷くと、ひとまず解散となり、それぞれにあてがわれた部屋へと戻っていった。
 作戦決行は明朝、霧の出時。それぞれの思いを胸に、夜は更けていく。



 深夜、黒装束に身を包んだガートナは一人、ヌシ様の住まうといわれる洞窟の前に来ていた。
 昼間【洞窟侵入班】が内部を調査している間、アレンと共にいくつかの罠を仕掛けておいたのだ。だが、あたりを見渡すも、誰かが罠にかかった形跡はない。ひとまずガートナは近くの茂みに身を隠し、じっと息を潜める。
 どのぐらい時間が過ぎただろう。月明かりの中、小さな音に気づいたガートナは、顔を上げる。その先にあるものは月。だが、その中央に小さな、そして不自然な黒点が一つ。音の発信源はそれだった。
 徐々に黒点は大きくなり、人の形を成す。それに伴い音も鮮明となりそれが声であることに気づく。
「うおおおおおお、遅れちまったぜえぇぇっ!主はどこだぁああああああああ!」
 大声で叫びながら疾走する影――ランスを片手に箒にまたがるそれは、イルミンスールの制服を纏った少年だった。
 少年が森に差し掛かると、木々の間に張られていた紐を引っ掛ける。と同時、多数の矢が少年目掛けて撃ち出される。
「うおおおおおおおおおお!?」
 辛くも矢を避けた少年だが、箒よリ落下。落ちた先で仕掛けを起動し、倒れてきた木を避けた先で落ちてきた網にかかり、もがいている内に移動した先で落とし穴に落下した。
「あーもー!なにやってんだよまったく!」
 なにやら男性的な口調でやってきたのは、ヴァルキリーのマナ・オーバーウェルム。彼女は穴に落ちて気絶している少年を担ぐと、ガートナーの潜んでいる茂みに向かって、笑顔で告げた。
「どうも、お邪魔しましたー」
 去っていく二人を見送り、すべてのトラップを使い果たされてしまったガートナは、仕方なく部屋に戻ることにした。



「完成じゃー!」
 そんな声と共に、怪しげな臭気を放つ三つの鉢を盆に乗せたミュールが酒場の置くから姿を現したのは、翌朝のことだった。
「吸血鬼たる我がなぜこのような早朝に・・・」
「む、俺様たちの朝食はないのか?」
「これじゃ」
 寝坊して朝食を食べ損ねたリアンとヴァレリーを、満面の笑みでミュールが浮かべる。
 彼女は差し出したものは、一見するときつねうどんだった。ただし、麺が紫色に煌きスープが濃い緑色をしているが。
「・・・まさか、俺様たちはこれを食べるのか?」
「うむ!」
 ヴァレリーの問いにミュールが満面の笑みで頷き、絶句する二人の前に鉢を並べる。
「作戦の鍵は、わらわたちの魔力じゃろう?だからしっかり食べるのじゃ!」
 その言葉に、二人はしぶしぶ謎のきつねうどん――ギャザリンヘクスによって作られたそれを口にする。
 その光景を眺め、アリシアとアレンの作った普通の朝食を食べ終えた他のメンバーは、揃って思う。
(早起きしてよかった・・・)
 余談だが、そのきつねうどんの味は、想像を絶するものだったという。



 食事を終え、しばし悶絶していた二人が復帰した頃、太陽は天頂へと近づいていた。
「霧だ!ヌシ様がいらしたぞ!」
 村人のそんな声を聞き、酒場に集まっていた面々は顔を見合わせる。
「来ましたな・・・では皆さん、作戦通りに頼みますぞ?」
 ガートナの言葉に、各々が頷きあい、外へと出て行く。
「皆さん、どうかご無事で・・・」
 その後姿を、アレンは心配そうに、
「私たちはお留守番なの」
「むー、つまんなーい」
 留守を任された未羅とアリシアはやや退屈そうに見送った。



「我への貢物は未だであるか!」
 濃霧が立ち込め、遠雷のような怒号が響き渡り、村人たちが怯えすくむ。そんな中、射月がスッと歩み出る。
「はじめまして。あなたが泉のヌシ様ですね?」
「何者だ?」
 あからさまな敵意を含んだ声にも臆することなく、涼しげな微笑を浮かべたまま射月が答える。
「この村に、あなたに捧げるための宝石を運んできた者ですよ」
「ほぅ」
 その言葉に、若干声の敵意が薄らぐ。声は続ける。
「ならば今宵、わが祠へと祭るがよい!」
「では、そのように手配いたしましょう」
 射月が仰々しく頭を下げる。その後ろから歩み出たのは、豪奢な儀礼用の騎士団服を纏ったガートナ。
「ヌシ様。せっかく来られたのですから、我らからの手土産も受け取ってはいただけませんかな?」
「何?手土産とな?」
 声の反応に、ガートナが薄く笑む。
「左様。・・・皆さん、今ですぞ!」
 ガートナの号令と共に、影の周囲三方から飛び出したのは、
「やれやれ、やっと俺様たちの出番か」
「わらわの力、とくと思い知るがよい!」
「我に挑んだことが、おまえたちの敗因なのだよ」
 ヴァレリー、ミュール、リアンが、手加減無しの火術を三重展開。ギャザリンヘクスによって強化された魔力がほとばしり、影を大きく囲う炎の環となる。
 炎により露点温度に達していた大気温度が上昇。飽和状態にあった水分子が再び水蒸気となり、徐々に霧が晴れていく。それと共に影も消え失せていき、
「では、行きましょうか」
「はい、射月さん!」
 射月とエドウィンがバーストダッシュで疾走を開始。颶風となり、森の一角に切り込む。
「く、野郎ども、作戦失敗だ!腹括れ!」
 それにあぶられるように出てきたのは、見るからに素行の悪そうな6人の男たち。そのうち一人の手には、
「やはり、我の予想通りであったな」
「ふむ、まさか本当に小型の映写機を使っておったとはのぉ」
 リアンとミュールの指摘どおり、小型の映写機が握られていた。映写機を使い、霧中の水滴をスクリーンとすることで、彼らはヌシの幻影を作り出していたのだ。
「バレちゃ仕方がねぇ・・・野郎ども、やっちまえ!」
 リーダー格の男が叫ぶ。その嗄れ声は、出し方次第で先ほどの声のようにも聞こえるだろう。男たちが思い思いの武器を手にし、それぞれの相手を見据え、駆け出した。



「ハハハッ、お嬢ちゃんが俺の相手か?こいつは楽でいいや!」
 手斧を携えた男と対峙するのはティア。自らの体から引き抜いた、十握剣の形状をした光条兵器を握り締め、気丈に叫ぶ。
「ま、負けないもん!」
 再び男は笑うと疾走。上段から振り下ろされたそれを、ティアの剣が受け止める。が、
「きゃっ!」
 やはり力の差は大きく、姿勢が大きく崩される。そこを狙い、男の容赦ない攻撃が、二度、三度と降り注ぐ。
 辛くも受け流すが、姿勢はさらに崩れ、ついに転倒。その隙を見逃さず、男は一際大きな動作で斧を振り下ろす。
 耳朶を打つ激しい金属音。横合いから差し入れられた鉄杖が、斧を受け止めていた。その柄を握るのは、
「ガートナさん!」
「ふむ、君はいささか騎士道精神に欠けますな。どれ、私が助太刀いたしましょう」
 右手に光条兵器であるジャマダハル、左手に愛用の鉄杖をそれぞれ握り、構える。
「はっ!おっさんが増えたところで何が変わるってんだ!こいよ、まとめて相手にしてやる!」
 男が威勢良く啖呵を切る。
「では、お言葉に甘えさせてもらいましょうかな。ティア君、いけますかな?」
「うん!今がボクたちの出番だもんね。頑張っちゃお~!」
 ガートナの言葉にティアが頷くと、同時に疾駆する。右から接近したガートナが振るう鉄杖を、男が半身を捻って回避。連動して突き出されたジャマダハルを斧で受け流す。
 そのまま左の裏拳を振るい、逆側にいるティアを打った。
 つもりだった。
「はっずれ!」
 予想以上にティアの身長が低かったため、男の拳は空を切る。隙を逃さず、ティアが十握剣を一閃。胴を薙がれ、姿勢を崩した男に体当たりを見舞う。
「くそっ!」
 上体を起こそうとした男の首筋に触れる冷たい感触。即座に追いついたガートナが、鉄杖を突きつけていた。
「勝負あり、ですな」
「正義は勝つんだからね!」
 二人の勝ち誇った顔に、観念した男は地面に身体を投げ出すのであった。



「ふっ!」
 男の握った短剣が煌き、鋭い突きが繰り出される。それを紙一重で避けると、ヴァレリーは後方に跳躍。一旦距離を取る。
「てめぇ・・・吸血鬼だろ?だったら、魔法さえ使わせなきゃこっちのもんよ!」
 男の言うとおり、彼の身のこなしは軽く、ヴァレリーは先ほどから魔法を完成できずにいいた。
「まったく・・・俺様のようなうら若き乙女にナイフを向けるなど、貴様はそういう趣味か?」
「うるせぇ!誰がうら若き乙女だ!それに、俺はもっと女らしいのがタイプなんだよ!」
「ほほぉ・・・俺様を年増と・・・いい度胸だな、貴様」
 ヴァレリーがお手本のような作り笑いを浮かべる。男は一瞬たじろぐが、気を取り直し再び肉薄。すばやい突きを繰り返す。
「まぁ、たしかに、これでは、魔法は、使えんな」
 それらを何とかかわしながら、ヴァレリーが呟く。実際には詠唱無しでも使うことは出来るが、それでは効果は薄いだろう。
「だったらさっさと往生しな!」
 男の渾身の突きをかわすと共に、その背後へと回り込む。
「なかなか早いじゃ・・・がっ!」
 ガッシャーン。と澄んだ音と共に、男の体が朱に染まる。だが、それは血ではなく、
「・・・ワイン?」
「まったく、俺様の秘蔵の酒が・・・光栄に思えよ」
 男が振り向こうとしたとき、懐に隠し持っていたワインで頭を殴打したのだ。だが、所詮はウィザードの腕力。大したダメージは与えられていない。
「はっ!俺に勝利の美酒を捧げるとは、いい心がけじゃねぇか!」
 横薙ぎの短剣を、後方跳躍し回避する。
「何を勘違いしているんだ貴様は・・・それは俺様を勝利に導く美酒だ」
「何を言って・・・まさか!」
「そう、そのまさかだよ」
 ヴァレリーの手に小さな魔力が宿り、小さな炎を生み出す。普通ならば、大した威力もない、明かり程度のものだが、
「う、うおおおおおおおおおおおおお!」
 勢い任せに突っ込んできた男を避け、すれ違いざまにその炎をぶつける。
 アルコールにまみれていた男の身体は、ほんの小さな火から一瞬で業火に包まれる。
「まったく、俺様の邪魔をするからそうなる」
 炎に捲かれる男を眺め、ヴァレリーは冷徹な笑みを浮かべるのだった。



「うわ!」
 エドウィンが民家の影に顔を引っ込める。と同時、その壁を飛来した石が叩いた。
「スリングってやつか・・・厄介だな」
 中央部だけが平たくなった紐状の武器。平たい部分に石を乗せ、遠心力を使って投擲する武器。それがスリングである。原始的ではあるが、遠距離戦闘の術を持たないエドウィンには厄介な相手だった。
「バーストダッシュで近づこうにも・・・こう建物が多くちゃな・・・」
 投擲武器は確かに厄介だが、距離を詰めてしまえばエドウィンに軍配が上がるだろう。だが相手は、民家の影を動き回り、容易に近づくことが出来ない。
 様子を伺おうと、影から顔を覗かせるが、再び石が飛来したためひっこむ。
「このままじゃ埒が明かない・・・どうするかな・・・」
 しばし熟考するエドウィン。やがて彼が出した答えは、
「これなら!」
 バーストダッシュによる高速接近。ただし、地上からではなく、上空からの降下戦法だった。
 遮蔽物のない空中。格好の的になると思われたエドウィンに石が飛来する。が、
「効きはしない!」
 勢いのない石を、エドウィンの剣が砕く。
 世界に重力というものが存在する以上、物を上へと飛ばすには大量のエネルギーが必要となる。人間の腕で発生させられる力など、重力の前では微々たる物だ。
「はあああああああああああ!」
 重力の力を借り、勢いを増したエドウィンが、スリングを構えた男に向かって降下する。一つ、二つと投擲を行うが、加速した彼にはもはや通用していない。
 男に肉薄したエドウィンは、勢いを殺さず剣で相手を殴打する。投擲兵とは、総じて身軽な格好をしているものだ。彼も例外ではなく、普通の服しか着込んでいなかったため、その一撃であっけなく気を失う。
「蝶のように舞い、蜂のように刺す・・・・・・ってわけにはいかなかったけど、まぁ上出来かな?」
 確かな手ごたえを感じ、エドウィンは一人呟いた。



「面倒な・・・」
「こりゃ!サボるでないわ!」
 どこかへ立ち去ろうとしたリアンの頭を、ミュールが杖で小突き、説教を始める。
「おまえの説教は脈絡がなさ過ぎる」
「なにおぅ!この若造が!」
「てめぇら!この俺を無視するんじゃ・・・うおっ!」
 業を煮やして叫んだ男の足元に、火球が炸裂する。
「やかましい!わらわは今この若造と話をしておるのじゃ、少し静かにしておれ!」
「ふむ・・・ならば、先にあれを黙らせればよいだろう」
「む、それもそうじゃな」
 手早く結論を出した二人が、男に向き直り、それぞれに火術を放つ。
「うおっ、ちょ、ま!ひ、卑怯じゃねぇか!」
 攻撃を避けながら、男が必死に講義するも、二人は聞く耳を持たない。
「ちょろちょろと、面倒じゃのぉ・・・おい、おぬし。一息に片をつけぬか?」
「同感だな。早々に終わらしてくれよう」
「あ、あの・・・ちょっと・・・?」
 二人が同時に詠唱を開始。膨大な魔力が膨れ上がる
「万能なる力よ、我が敵を焼き尽くすのじゃ」
「万能なる力よ、我が手に集いて敵を穿て」
「火術!」「雷術!」
 炎の弾丸と雷の槍が男に殺到し、その身を焼く。死んでこそいないものの、戦闘不能なのは一目瞭然だ。
「なんで、俺だけこんな扱い・・・」
 薄れ行く意識の中、男はそう呟いた。



 空気を裂き飛来した矢が射月の頬をかすめ、一条の朱を引く。次矢をつがえる男に反応し、とっさに物陰に身を潜める。
 射月の対峙する相手、金のモヒカン男は短剣に皮鎧という軽装だが、その背と腰に矢筒を背負った腕利きの弓士だった。
 弓とは本来、遠方から相手を射る武器であり、矢を抜き、つがえ、弦を引き、射る。という長い動作を必要とするため、接近距離では不利とされている。だが、男の手にした全長60㎝程のそれは、短弓と呼ばれ、威力よりも連射性能を重視したものであり、手馴れた者ならば十秒とかからずに一矢射ることもできる。
 加えて、遮蔽物の多い村の中だ。機動性を生かして接近するのも難しい。
「なかなかに厄介ですね・・・」
 そうぼやく射月。だが、その表情はいつもと変わらぬ笑顔。
「ところで、そこの方。一つお聞きしたいのですが?」
「・・・なんだ」
 家屋に背を預けたまま声を張る射月に、男が怪訝そうな顔を浮かべる。
「なぜこのような事をしたのですか?宝石だけなら、それこそ鉱山街でも脅したほうが手っ取り早いのでは?」
 その問いに、「そんなことか」と男が鼻を鳴らす。
「確かにそうだろう。だがそれでは、一度きりしか奪えぬし、何よりアシが付きやすい。だがここなら、ヌシの仕業として毎年奪えるからな!もっとも、村がおまえらを雇ったのは予想外だがな」
「なるほど」
 答えを聞いた射月は、微笑を貼り付けたまま、徐に家屋の影から身を晒す。
「世界のためにも、あなた方のような方を放置するわけには・・・いきませんね」
 そのまま真っ直ぐと、無防備に男に近づいていく。それに向かって男が矢を放つ。
 一直線に射月に向かった矢は、その身に突き刺さる前に抜き放たれた剣に弾かれる。
「ちぃっ!」
 舌打ちと共に男が第二射、三射と次々に矢を放つが、その全てが打ち落される。
 距離を詰められ、不利と判断した男が反転。物陰に隠れつつ、距離を取る。
 それにあわせて射月が疾走を開始。そばにあった家屋の壁を蹴り高々と跳躍。さらに空中でバーストダッシュを発動し、一直線に男に迫る。
「くっ・・・ぎゃっ!」
 とっさに矢を射ろうとするも間に合わず、男は勢いの乗った射月に蹴り倒される。痛みに呻き、目を開いたそこには、
「知っていますか?小賢しい考えを巡らす小悪党ほど、無残な最期を遂げるものですよ?」
 剣を逆手に構えた射月の姿。その表情はいつもと変わらぬ笑顔だが、底知れぬ残酷さが秘められているようにも見える。
「た、頼む・・・命だけは・・・な?」
「なるほど、命乞いですか」
 震える声で懇願する男に、射月はいっそう笑みを深める。それを承諾と判断した男は「じゃ、じゃあ・・・」と漏らした。瞬間、
「何を甘いことを・・・身の程を弁えろ」
 射月の顔から笑みが消え、先ほどまで褐色を讃えていたはずの、真紅の瞳が見開かれる。同時に、逆手に握られた剣が振り下ろされ、男の頭部と地面とを縫いつけた。
「やれやれ・・・暇つぶしに来たものの、所詮はこの程度ですか」
 射月は倒れた男を――モヒカンが半分の長さになった男を見下ろす。彼は驚愕の表情を浮かべたまま、気を失っていた。
「ご安心を。殺しはしませんよ。そんな・・・無駄なことはしません」
 いつもと換わらぬ微笑を浮かべたまま、射月が冷たく囁いた。
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