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黒竜と宝珠の出会うとき ―アリシアとの出会い―

「まずいな・・・」
 鬱蒼と生い茂る深い樹林。降り注ぐ豪雨の中、少年は舌打ち混じりに呟いた。
 首筋で束ねた、腰まで届く漆黒の長髪と同色の双眸。雨にぬれた肌は雪のように白くきめ細かい。見る者によっては少女と見紛うような細い体躯は闇色の外套に包まれ、深夜の森に溶け込んでいる。
 少年は一度、自分の後方を振り返ると、再び闇の中へと消えた。



「・・・ん」
 薄暗い部屋の中、少女は眼を覚ました。小柄な体躯と幼さの残る顔立ちは、十代前半を思わせる。
 まだ覚醒しきってない意識の中、少女は蒼く澄んだ瞳を部屋の入り口へと向ける。
 誰もいない。誰か来る。確固たる予感を胸に、少女は純白のドレスに包まれた身体を起こした。


 薄暗い、石造りの古い遺跡の中、少年は壁に背を預け天井を仰ぐ。雨の中を駆け抜けてきたため、ブーツは泥にまみれ、全身からは水滴が滴り、右脇腹からは鮮血が溢れ出している。
 外套の下、漆黒に染め抜かれた皮鎧が防刃シャツごと裂け、朱に染まっている。傷口を押さえる左手の下からは今なお血が流れ出て、雨水と交わり真紅の水溜りを作っている。
(致命傷ではないが・・・出血が多い)
 失血死の危険は薄いが、意識を失う可能性は高い。彼のおかれた状況は、それは即ち死に直結することになる。
 どうするか。と思考を巡るが、即座に中断。漆黒の双眸が遺跡の奥の闇を映す。
(呼んでいる・・・誰が・・・?)
 動けば出血を促し、意識喪失に繋がるのは明白だ。だがそれでも、彼は奥へと足を進めた。



 紅の足跡を残しながらたどり着いたのは、重厚な観音開きの扉だった。少年はそれに手を掛け、ゆっくりと開く。
 薄暗い部屋。その中に浮かび上がる白い影。純白のドレスに身を包み、燃えるような赤い髪を後頭部で纏めた少女がゆっくりと振り返る。
「・・・!」
 少年はその姿に、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに頭を振って否定する。
(髪も瞳の色も違う・・・それにあいつはもう・・・なぜ見間違えた・・・?)
 対して振り返った少女は一瞬頬を染めると、人懐っこい笑みを浮かべて歩み寄る。
「はじめまして!私はアリシア・ノース。剣の花嫁だよ!きみが私の契約する人?」
「・・・は?」
 アリシアと名乗った少女に、少年は気の抜けた言葉を返す。剣の花嫁、契約。聴きなれない言葉の意味をかんが思い出そうとした瞬間。
「わ、ちょ!」
 左肩から地面に倒れこみそうになり、アリシアに支えられる。が、体格差をとめることができずに、そのまま地面に倒れこむ。
「いたた・・・どうしたのさいきなり・・・って!すごい怪我・・・まって、今治してあげるから!」
 言うが早いか、アリシアの手が傷口に添えられる。
「万能なる力よ、彼の者の傷を癒したまえ・・・ヒーリング!」
 詠唱と共に柔らかな光が傷を癒していく。その光景を見て、少年は思い出す。
(剣の花嫁・・・シャンバラとかいうところの住人か・・・)



「へー、じゃあ焔は傭兵で、紛争の沈静のために戦ってたんだ?」
「あぁ・・・敵は殲滅できたんだが、生き残りの撃った弾丸をもらってな。追撃を逃れるためにここにきた」
 アリシアの言葉に、焔と呼ばれた少年が苦笑混じりに返す。
「でも・・・大変だね、妹さんも亡くなっちゃったんでしょ・・・?」
 アリシアは自分の名前と一つの景色以外まったく覚えていないこと。いつからかここで眠っていたこと。自分のわかる限りの生い立ちをすべて話してくれた。
 焔もまた、自分が傭兵であることや、作戦中に負傷してここに来たこと。そして何より、滅多に話さないはずの自分の妹のことまで話していた。
「なぜかはわからんが・・・おまえが一瞬、あいつに見えた。不思議なものだ」
「そっかー・・・えへへ、これも一つの運命ってやつなのかな?」
「どういうことだ?」
「焔。・・・私は、自分の記憶と居場所を見つけたいの。だから・・・その・・・私と一緒に、探してくれない、かな?」
「契約、か」
 僅かに頬を高潮させ、アリシアが問う。暫し逡巡していた焔は、やがて頷く。
「わかった、おまえの行く先にあるであろうあらゆる困難から、黒竜の名を以ってして守り抜くことを誓おう」
 その答えに、アリシアは満面の笑みを浮かべ、焔に抱きつく。
「ありがと!これで契約成立だね!」
「こんな簡単でいいのか?・・・それと、出血は止まったが傷は塞がりきってないんだ。あまり抱きつかんでくれ」
「あ、ごめん・・・」
 あわてて離れるも、少し残念そうに上目遣いで焔を見やり、「あの・・・」と呼びかける。
 が、二の句は告げなかった。焔は険しい表情で、扉を睨みつけている。
「・・・追っ手に嗅ぎつけられたな」
「え、うそ・・・ど、どうするの?」
 焔は一瞬瞳を閉じ、神経を研ぎ澄ます。聞こえてくる足音と声音は五色。再び瞳を開き、周囲を見渡す。
「アリシア、おまえは隠れていろ」
「焔はどうする気なの・・・?」
「音からして銃が一人、近接が四人。急襲して一気に片をつける」
 言って刀に手を掛け、扉の傍に潜む。
「気をつけてね・・・焔」
 焔は何も言わない。アリシアもそれ以上は何も言わず、寝台の裏に身を潜める。
 やがて扉が開き、槍を持った二人の男と剣を携えた男、手斧を持った男と自動小銃を構える男が姿を現す。
 刹那、潜んでいた焔が飛び出し、鞘走りした刃が一閃。男の持った自動小銃の銃身を両断する。
 突然の事態に慄く男たちの中でさらに銀閃が煌き、槍を持った男の一人の咽頭を貫く。
 真っ先に反応した剣を携えた男が抜刀。側面から焔に切りかかるが、焔は刺し貫いたままの刃を振りぬき、その一撃を受け止める。
 その隙を逃すまいと、もう一人の男の槍が刺し出される。が、半身を捻り回避。同時に受けていた男の剣を流す。
「!」
 一瞬、焔の端正な顔立ちが歪む。同時に手斧がその胴を両断せんと力の限り振るわれる。
 咄嗟に刀を立てその攻撃を受け流すが、無理な姿勢から受けたため、その手から刀が離れ、床に突き立つ。
 焔は即座に後方跳躍。その身を寝台の裏に隠すと、一瞬前まで焔がいた場所を弾丸が抜ける。
「ほ、焔!大丈夫!?」
 アリシアの視線。焔の脇腹からは、鮮血があふれ出していた。先ほど塞いだ傷が、戦闘の中で再び開いたのだ。
「・・・・・・アリシア。俺が隙を作る。その間に逃げろ」
「え・・・?」
「万全の状態ならともかく、血を失った状態でおまえを守りながら、しかも素手で渡り合うのは無理だ」
 焔の言っていることももっともだろう。だが。
「・・・やだ」
 アリシアの口からこぼれたのは否定の言葉。
「もう・・・やだ。大切な人を置き去りにして、自分だけ逃げるなんて・・・」
 それは無意識に、感情が漏れ出しているような言葉。だからこそ焔は何も問わなかった。
「武器があれば・・・いいんだよね?」
 今度は意志の篭った問い。焔は頷く。
「あぁ・・・どんなものでも使えるつもりだが、刀なら一番助かる」
「なら・・・私の力、焔に託すよ」
 言って、焔の手を自分の薄い胸に重ねる。
「わかる?私の中にある力。存在。焔ならきっと使えるはず・・・だから・・・」



「ちっ・・・なんて野郎だ」
 槍を持った男が、倒れた仲間を見ながら悪態をつく。
「手負いとはいえ、やはり竜の名は伊達じゃないみたいだな」
 剣を持った男がそれに同意する。
「だが奴に武器はない。袋のネズミだ」
 手斧を構える男が、焔の逃げ込んだ寝台を睨みつける。
「よし、貴様らは両サイドから回れ。出てこなきゃ俺が撃ち抜いてやるよ」
 自動小銃を切られ、予備の拳銃を抜いた男が仲間に指示を飛ばし、寝台へと歩み寄る。
 お互いに視線を交わし、距離を測り、連携の準備を整える。
「いまだ!」
 拳銃を持った男の声と同時、その心臓を青白い光が貫く。
「な・・・」
 その光は寝台の向こうから伸びている。遅れて、傷口から鮮血があふれ出し、男は意識と命を失った。
 それを確認したかのように、光が寝台の向こうへと消える。
「なるほど・・・任意の物のみを切る能力、か」
 そんな呟きとともに焔と、遅れてアリシアが姿を現す。焔の手には先ほどの青白い光。湾曲したそれは、刀のような形状であった。
「闇をも食らう光の剣・・・漆喰、とでも銘打つか」
「漆喰・・・いい名前だね」
 笑顔で同意するアリシアは焔の外套を纏っている。その下の純白のドレスは胸元が破れ、気持ち程度の膨らみが覗いている。
「さて・・・漆黒の竜帝の御名、その魂に刻み果てろ」
 獰猛な笑みを浮かべ、残った三人の男へと焔が向き直る。そして、



「さて・・・親父たちにどうやって説明するかな」
「ん~?恋人です、って紹介してくれればいいよ!」
「なぜそうなるんだ・・・」
 鬱蒼とした森の中、朝日に照らされながら二人は陣営へ向かって歩いている。
 昨夜の雨であちこちぬかるんではいるが、決して歩けないわけではない。多少時間はかかるが、昼過ぎには目的地にたどり着けるだろう。
「わたた・・・!」
 泥に足をとられ、転びそうになったアリシアの襟首を焔が掴む。
「何やってるんだまったく・・・」
「だって~・・・ずっと眠ってたから、こんな風に歩くの久々なんだもん・・・」
 頬を膨らませてアリシアがぼやく。焔は軽く嘆息すると、その小さな手を掴む。
「あ・・・」
「・・・転んで汚されるのは困るからな」
 遺跡の中で目の当たりにした『漆黒の竜帝』の異名。僅かな畏怖を感じていたが、それ以上の優しさを感じ、アリシアは笑う。
 そして思う。
(私の居場所・・・なんとなく見つけちゃったかも)
 漆黒の竜帝と黒竜の宝珠はこうして出会った。この先にはまだ多くの困難が待ち受けているが、それはまた別のお話・・・
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SS企画 ―序章―

序章

 パラミタ大陸沿空部都市「ツァンダ」その一角に建てられた私立校「蒼空学園」。授業も終わり、静かになった高等部の一室に、
「や~だ~!」
 その声は響いた。
「やだやだ!焔と一緒に行くの!」
 燃えるような紅いポニーテールにした少女―アリシア・ノースが叫んでいる。赤を基調とした薄着から伸びる手足は細く、その小柄な体格も相俟って、本当に高等部の生徒かと疑いたくなる。
「あのなぁ・・・何度も説明したとおり、今度の仕事は一人のほうが早いんだ。それに、おまえには校長から依頼という名の命令が下ってるんだろ?」
 腰まで届く、闇より深い漆黒の髪と同色の双眸。闇色の外套を纏った青年、アリシアのパートナーの村雨 焔は、なおも食い下がるアリシアを必死になだめる。
「アリシアちゃん・・・わがままはメッなの」
 後ろで待っていた機晶姫の少女―朝野 未羅が、アリシアの襟首を掴む。
「すまんな・・・未羅。アリシアを頼む」
 焔の言葉に、未羅は静かに頷くと、そのままアリシアを引き摺り部屋を出る。
「ちょ!未羅、離して!はなせ~!」
「ダメ」
 そんな会話と、焔のため息を後に残して。



「湖のヌシか・・・面白そうではないか」
 薔薇の学舎の一室。吸血鬼リアン・エテルニーテは、校長ジェイダスから送られてきたメールを読み、そう呟いた。
「我の知識を披露し、この事件、見事解決してみせよう・・・」
 少し古ぼけた、ダークレッド模様の描かれた黒マントを翻し、彼は一路ジャタの森へと向かった。



 ツァンダの街中、ヴァルキリーである紅 射月(くれない・いつき)は、暇を持て余していた。
「彼がいないと退屈ですね・・・さて、どうしましょうか?」
 彼、とは射月のパートナーのことである。彼もまた、例の事件を追い出払っていたのだった。
「せっかくですから、新しい眼鏡でも探しにいきましょうか。それとも・・・」
 思案に暮れる射月の懐、携帯がメールの着信を告げる。差出人は校長、御神楽環菜。内容は簡潔に、
『暇を持て余してるあなたに仕事をあげるわ。他の生徒と合流してジャタの森へ行きなさい。内容は他のメンバーから聞くように。集合場所は・・・』
 読み終え、携帯のフリップを閉じる。幸い集合場所はそう遠くないため、射月は歩いて向かうことにした。
「楽しみですね・・・いったいどんな事件が待っているんでしょうか?」

SS企画 ―第一章―

第一章 ―合流・役割分担―

 シャンバラ地方東部。カナンとの国境線に広がるジャタの森の一角にある、フィーリル湖。その湖畔に作られた村に、大きな馬車が到着する。
 蒼空学園の校章が入った馬車から最初に降りてきたのは、数人の歳若い少女たち。
「わ!見て見て、綺麗な湖~!ここでキャンプとかしたら楽しそ~!・・・泳げないけど」
 真っ先に降りて無邪気にはしゃぐのは、剣の花嫁であるティア・ユースティ
「おいおい、俺様たちは遊びに来たわけではないぞ」
 続いて降りてきた、吸血鬼であるヴァレリー・ウェインがそれを諭す。その出で立ちは、男性なら思わず振り向かずにはいられないほど妖艶だが、口調は限りなく男っぽい。
「と、酒瓶を片手に言っても説得力はありませんがね?」
 射月が微笑を浮かべ指摘する。ヴァレリーの手にはワインの瓶が握られていて、その半分ほどはすでに消えている。
「硬いことを言うでない。楽しければよいではないか」
 歳若い外見に似合わぬ老人口調で、魔女ミュール・メイルが告げる。
「いえいえ、行為自体を否定はしませんよ。ですが、今は一応任務中。快楽主義もかまいませんが、肝心の時に動けないのではどうにもなりません。ですので、ほどほどに・・・」
「えぇい!おぬし、若造のくせに話が長いわ!」
 回りくどい説明に癇癪を起こしたミュール。その光景に、射月は肩をすくめる。
「やれやれ・・・この歳になると、長時間の馬車移動は堪えますな・・・」
 年寄り臭い動作で腰を叩くのは、剣の花嫁(?)であるガートナ・トライストル。40代半ばに見える彼は、この集団の中で一人異色の存在であり、見方によっては子沢山の父親のようにも見える。
「はぁ・・・焔ぁ・・・」
「アリシアちゃん、そろそろ元気出して?」
 最後に降りてきたのは、いまだ元気のないアリシアと、それを励ます未羅。そして、
「ようこそ、皆さん。ここが私の住む村です」
 依頼人であり、この村の住人アレン・ルトゥーリア。短めに揃えられた茶髪を揺らし、7人に村を紹介する。その後ろに広がるのは、湖畔沿いの長閑な農村・・・なのだが、ところどころ畑が荒れていたり、住居が半焼していたり、包帯を巻いた人が歩いていたりもする。
「して、アレン君。私たち七人だけで村を守るというのは、いささか骨が折れると思ますがな?」
「あ、はい。そのことなら、後ニ名薔薇の学舎からも来ていただけるとのことなのですが・・・」
 ガートナの問いに答えたアレンが、周囲を見渡す。と、まるで計ったかのようなタイミングで馬の嘶きが響く。
 馬蹄の響きと共に現れたのは、2頭の白馬。1頭を駆るのは、黒マントを風に靡かせるリアン。もう1頭には焦茶のツンツンヘアーをした、若きヴァルキリーの少年、エドウィン・スカイラートが跨っている。
「我が名はリアン・エテルニーテ。我が智謀を披露するために参上した」
 下馬し、知的な一礼と共に自己紹介を行うリアン。だがその言葉はやや聞き取りづらい。
「俺はエドウィン・スカイラート。ひょっとしたら、強い奴と戦えるかもしれないから、応援にきたんだよ」
 リアンとは対照的に、美しい声で告げるエドウィン。すでに到着していた蒼学メンバーも、各々自己紹介を済ます。
「そ・・・それにしても、蒼学メンバーはずいぶん、じょ、女性が多いんだね・・・」
 周囲を見渡し、僅かに上ずった声を上げるエドウィン。戦場で育った彼は、女性の相手が苦手だった。
「何を言う、俺様は大満足だぞ!ただ、残念なのは俺様好みの巨乳の娘がいないということだな。しかしたまにはロリというのも・・・」
「そういうことやってる場合じゃないでしょ!」
 スパーンッという小気味のいい音と共に、ティアの胸を弄ろうとしていたヴァレリーの後頭部に、アリシアがどこからともなく取り出したハリセンがクリーンヒットする。
「とりあえず、どこか落ち着ける場所はないかの?わらわは長旅で疲れたのじゃ」
「・・・あ、はい!えっと、こっちに酒場が・・・」
 事態についていけず、あっけに取られていたアレンは我に帰ると、村の中にある大きな建物を目指し歩き出す。
「・・・いたいのいたいのとんでけ、なの」
 事態の推移を静かに見守っていた未羅が、ヴァレリーの頭を撫でる。ここぞとばかりにその小さな身体に抱きつこうとするが、華麗に回避されたのは言うまでもない。



 アレンに案内された建物は、木造の大きな建物だった。1階には30ほどの椅子といくつかのテーブルが並び、昼は食堂、夜は酒場として使われているようだった。
「それで、爺さんが最初にヌシ様が出たって言い出したのか?」
 ヴァレリーの威圧的な視線が、白髪の老人を見据える。いまこの広い部屋には、集まった9人の学生たちとアレン。そして村の長老である老人だった。
「左様ですじゃ・・・わしとて長く生きておるが、ヌシ様を直接見たのは初めてですじゃ・・・」
「では、そのときの状況を詳しく話してもらえますか?」
 丁寧な口調で問うは射月。いつもどおりの柔和な笑みを浮かべている。
「えぇ・・・あれは、およそ半月ほど前。わしらが収穫祭の準備をしておったときじゃった・・・」
 長老の話はこうだ。半月ほど前、村人たちが収穫祭の準備に追われていた頃に、霧が立ち込め始めた。昔からそれは「ヌシ様が居られる証」とされていたため、村人たちは一段と張り切り、準備を急いだ。
 だが、その霧の中に突如巨大な影が浮かび上がり、遠雷のような声が響いた。『空腹ではない。今年の収穫祭は宝石を供物とせよ』という内容だったらしい。
「巨大な影・・・?ってことは、長老さん。ヌシ様の姿を、本当は誰も見てないってこと?それじゃ、ハリボテとかって可能性も・・・」
「はい・・・私たちも、ヌシ様の突然の要求を怪しんで、霧が晴れてすぐに辺りを捜索しました。でも、そんな痕跡はどこにも・・・」
 エドウィンの問いに、アレンが悲しげな表情で答える。それだけで、エドウィンは二の句が告げなかった。
「もしヌシ様のお怒りに触れれば、わしらに災いが降りかかるとされておるのです・・・現に、ここまでに村の様子を見なさったじゃろう?」
 それぞれが、ここまでに見たものを思い出す。荒れた畑に焼けた家。割れた窓に怪我をした村人。
「お願いします・・・このままでは私たちの村は、この先どんな災いに見舞われるか・・・」
「永遠などというものは無いのだよ。明けぬ夜も、覚めぬ悪夢もない」
 アレンの懇願に、リアンがボソりと返す。はっきり言えば格好いい場面なのだが・・・ 
 その代わりと言わんばかりに射月が立ち上がり、はっきりとした声で告げる。
「お任せください。それに、僕たちが何とかしなければ、確実に世界は崩壊するでしょう?」
「いや、世界は関係ないと思うんだけど?」
 ティアの冷静なツッコミはスルーらしい。
「あぁ、では諸君。ひとまず、役割分担を決めますぞ」
 最年長であるガートナが手を打ち、脱線しがちなメンバーを纏める。各々が近くの人間や、気の会う友人と話し始める。そんな光景をアレンと長老は、期待と不安の入り混じった目で見つめていた。



「僕はやはり、ヌシ様の行動が気になりますね。唐突の変貌に、村人が見たという怪しい人影。これはつまり・・・」
「ヌシ様が偽者、と考えるのが妥当でありますな」
 射月の言葉をセーウェルスが継ぐ。それに呼応したのはヴァレリー。
「俺様もそう思っていたところだ。どれ、ここはひとつヌシ様がいるという洞窟に侵入してだな・・・」
「わらわも行くのじゃ!」
 その提案に、挙手して賛成するミュール。「面白そう」という理由と興味半分で参加した彼女は、実に楽しそうだ。
「そうかそうか、では俺様と二人っきりで薄暗い洞窟へ・・・」
「行かせるのは危険な気もしますので、僕も同行しましょう。ガートナさん、あなたは?」
 妖しく目を光らせるヴァレリーを射月がやんわりと止め、ガートナに向き直る。ガートナは「ふむ・・・」と一瞬考えるそぶりを見せる。
「私は少し、試したいことがありますのでな。少し別行動を取らせていただきたい」
 その答えに、射月は笑顔で頷く。
「しかしじゃな・・・わらわは洞窟の場所なぞ知らぬぞ?どうするつもりじゃ?」
「それについては・・・」
 ミュールの疑問に応えるように、射月はアレンに視線を向ける。その意図に気づいたアレンが頷く。
「わかりました。私がご案内します」
「いかんぞアレン!ヌシ様の洞窟はわしらにとっては禁忌とされておることは知っておろう。入ることなど、まかりならん!」
「しかし長老・・・!」
「では、こうしてはいかがですかな?」
 声を荒げる二人の間に、ガートナが割って入る。
「アレン君には、洞窟の入り口まで案内してもらい、中には入らない。これなら、禁忌を犯すことにはならないでしょう。潜入班が戻るまでは、私が護衛いたしますぞ」
 その言葉に、アレンは力強く、長老はしかたないと頷く。
「よし、では決まりだな。皆、俺様について来い!」
 ヴァレリーの言葉を締めとして、【洞窟侵入班】は行動に移るのだった。



「ねぇ、リアンさん。リアンさんはどうするの?」
「我はヌシとやらの正体が気になる」
「じゃあ、洞窟に行くんだ?」
「行かぬ。面倒であろうが。我は村に残り、現れたヌシとやらを調べる」
「じゃあ、僕と一緒だね。僕は、強い奴と戦いたくてここに来たんだけど、探さなくても待ってればヌシ様が来るかなって」
 それぞれの理由で、村に残ることを決めたリアンとエドウィンの薔薇学コンビ。その背後に小さな影が迫る。
「ねぇねぇ、二人とも村に残るんだよね?じゃあボクと一緒だ!がんばろーね!」
 無邪気な声を上げたのはティア。そんな彼女を、リアンは煩わしそうに、エドウィンは僅かに緊張した面持ちで見つめる。
「ボクは村の人を治療しながら、いろんな情報を聞いて回ろうと思うんだけど・・・お手伝いしてくれないかな?」
「面倒だ・・・が、おまえが情報を持ってくるならば、考えるぐらいはしてやろう」
「じゃ、じゃあ、僕は一緒に行こうかな。よろしくね、ティアさん」
「うん、よろしくね~!」
 女性への免疫のないエドウィンだが、子供っぽいティアには幾分マシのようだった。この機会を弱点克服の一歩にしようと考えているとかいないとか。
「では、我はここで待っていてやる。行って来い」
「はーい!」
「では、いってきます」
 リアンが促し、2人は村人の元へ向かう。【護衛・調査班】の活動が始まった。



「ほ、本当に、大丈夫なんでしょうね?」
「だいじょーぶ!私を信じなさい!」
 不安げな村人の言葉に、アリシアが薄い胸を張って答える。その後ろでは、未羅が黙々と小型飛空挺のチェックを行っていた。
 どうしてこうなったんだろう・・・村人たちの不安を解消するには、少し時間を巻き戻す必要がある。

「アリシアちゃんはどうするの?」
 それぞれが己の役割を決める中、未羅は親友であるアリシアにそう問いかけた。対するアリシアは、子供っぽい仕草で腕組みをしながら考える。
「ん~・・・村の人を治療して回るのもいいけど・・・宝石も見てみたいかも!」
「じゃあ、ここまで運ぶ?でも、私たち二人で大丈夫なの?」
「だいじょーぶ!私を信じて!」
 未羅の疑問を根拠のない自身で一蹴し、二人は【宝石護送班】として動くことにした。

 そうして時間は今に至る。いくら機昌姫や剣の花嫁とはいえ、12~3歳にしか見えない少女たちが、はたして治安の悪い道を抜けて帰ってこれるのか。村人たちが不安に思うのも当然である。
 だが、赤いポニーテールを揺らし、大仰な仕草で説得しているアリシアを見ていると村人たちも根拠の無い自信に満ち溢れてくるから、不思議なものである。
「アリシアちゃん、準備できたよ」
「じゃあ早速しゅっぱーつ!あ、操縦は私が・・・」
「ダメ」
「えー、何でー?」
「焔さんから、アリシアちゃんは方向音痴だから任せちゃダメって言われてるの」
「むー・・・焔が私を信じてくれない・・・」
 文句を言いながらも、未羅の飛空挺へと乗り込む。
「行くよ?」
 駆動音と共に飛空挺が起動。浮遊しながら、アリシアが村人たちに大きく手を振る。そのまま加速。
 やがて小さくなっていくその姿を、村人たちは不安そうな表情で見送っていた。

SS企画 ―第二章―

第二章 ―正義の味方登場!?― 【宝石護送班】
 険しい山岳の一角に作られた鉱山街。屈強な男たちが土や岩を台車に乗せて行き交い、宝石商であろう裕福そうな男たちが、精錬前の原石と睨めっこしている。奥に見える鉱山からは時折、掘削のための爆音が響き、騒がしいことこの上ない。
 そんな中で、土に汚れた作業着に身を包んだ初老の男性が、複雑な表情をしていた。
「じゃあ・・・嬢ちゃんたちがフィーリル湖の村から派遣された護衛・・・で、間違いないんだな?」
「はい」
「だから、何度もそー言ってるでしょ!」
 彼、鉱夫主任は、質問に淀みなく答えた機昌姫と、叫ぶように言い返す剣の花嫁を交互に見やる。どちらもせいぜい、10代前半にしか見えない少女だ。
「村の方から食料の換わりに宝飾品を送るという話は聞いてませんか?」
「いや・・・聞いてはいるが・・・」
 機昌姫の少女、未羅の言葉に彼は言葉を詰まらせる。
「本当に・・・嬢ちゃんたちで大丈夫なんだろうね?」
「あー、もう!私たちだってもがもが・・・」
「アリシアちゃん・・・めっ」
 今にも飛び掛らんとする剣の花嫁、アリシアの口を塞ぎ、未羅がその動きを制する。
 そんな二人の様子に、苦笑しつつも信じることにした。そうでなければ埒が明かないからだ。
「わかったわかった。信じるよ」
 主任の言葉に、二人は破顔し喜ぶ。
「で、で?その宝石はどこにあるの?パパーッと飛空挺で運んじゃうからさ!」
 言って、アリシアが指差したのはここまで乗ってきた小型飛空挺。
「む?・・・あれじゃ無理だよ。とてもじゃないか積めた量じゃない」
「そんなにたくさんあるんですか・・・?」
「あぁ、一抱えほどの大きさの箱が五つ。馬車じゃなきゃ運べないよ」
 主任の言葉に、二人は顔を見合わせ、代表してアリシアが質問した。
「えと・・・村の人たちって、どれ位の食料を送ってきたの?」
「うむ、馬車三台に目一杯積んできてな。わしらも、それに応えないわけにはいかんからな。選りすぐりの宝飾品を五箱、選んでやったよ」
「それでも・・・宝石が多くないですか?」
「普通の取引ならそうだろうな。だが、ここは見てのとおり、土地も痩せて動物もいない。食料は町の宝石並みに貴重なんだよ」
 大飯食らいも多いしな。と付け加えて、主任は豪気に笑う。そのとき、若い作業員が一台の馬車を引いてやってきた。それは大きな幌のついた、立派な荷馬車だった。
「よし、宝石はすでに、この馬車に積んである。後は頼んだぞ、嬢ちゃんたち」
 しかし返事はない。顔を見合わせる二人に主任は「どうした?」と問いかける。
「えっと・・・私たち・・・」
「馬車、乗ったことないんです・・・」
「なに、そのことなら心配するな!」
 二人の返事に、笑顔を崩さず主任は答える。
「優秀な御者が一人、協力を買って出てくれてな。そういつに任せておけばいい!・・・お、噂をすれば」
 主任の視線の先、行き交う人の間を悠々と歩いてくる一人の人間。それはおおよそ、この場にそぐわない姿だった。
 ところどころに金糸の刺繍が入った、立派な濃紫色のローブに身を包む姿は、宮廷魔術師や司祭を連想させる。フードを深々と被っているために、その顔立ちは窺い知れないが、僅かに覗く顎先は細く、肌は雪のように白くきめ細かい。
「じゃ、頼んだぜ」
 主任に軽く頷くと、無言で御者台に乗り込み、未羅たちを一瞥する。
「ま、ちょいと無口な奴だが・・・腕は確かだ。せいぜい頑張ってくれよ、嬢ちゃんたち」
「はい」「はーい!」
 彼の言葉に返事をすると、二人も荷台へと乗り込む。それを確認した御者は、手綱を振るい馬車を進めた。



 左右を高い崖に挟まれた渓谷の中を、未羅たちを乗せた馬車が行く。手綱を握る御者の腕は流石で、大きな岩などを避けつつ、それでいて最短のルートを選んで進んでいる。しかし、
「あの人、ほんっと無口だよね」
 アリシアがぼやくのも無理はない。ここまでに何度か話しかけたものの、全て無視。あるいは手の動きなどで応えるだけ。一切の声を発していない。
「あの人、男の人?それとも女の人かな?」
「んー、私は女の子だと思うな。だって、手とかすっごく色白で綺麗だもん」
「でも、背が高いから私は男の人だと思うけど・・・」
 未羅の疑問やアリシアの答えも意に介さず、御者は淡々と馬車を進める。異変が起こったのはそのときだった。
「わ!」「何!?」
 穏やかに進んでいた馬車が、突然速度を上げたのだ。
「ちょ、どうしたの急に!?」
「何かあったんですか?」
 アリシアと未羅の質問には答えず、御者はさらに速度を上げる。それでも、転倒したり衝突したりしないのは奇跡的だった。あるいは、神がかった手綱捌きか。
 やがて、左右を流れる崖が徐々に低くなり、だだっ広い荒野に飛び出す。と、同時に馬車は左に大きく旋回。
 御者は馬を宥めると、荷台で目を回す二人を抱え起こす。
「な・・・何?何なのいったい・・・」
 アリシアの疑問に応えるように、御者は一つの方向を指し示す。左後方、つまり、先ほど抜けてきた渓谷の崖の上。そこに見えるものは、
「砂塵・・・?」
 未羅の言葉どおり、いくつかの砂塵が巻き起こっていた。それらは徐々に近づいてきて、彼女らの前方。棚段状になった2メートルほどの崖の上で止まる。
 砂塵の正体は五台のスパイクバイクとその乗り手たち。アリシアと未羅は身構える。
「世界に悪がはこびるとき・・・」
 中央のバイクの乗り手が、言葉と共に一歩前に出る。
「嘆きが世界を包むとき・・・」
 続いて、中央向かって右の乗り手が、
「か弱き涙が流れるとき・・・」
 中央左の乗り手が、
「・・・他」
 わずかな言葉と共に、右端の乗り手が、
「正義の使者が現れるのよ!」
 最後に、左端の乗り手が一歩踏み出す。崖の上に現れたのは、特攻服に身を包んだ色とりどりのモヒカンたち。
「ニジレッド!」
 中央の、赤い特攻服を纏った赤いモヒカン男が名乗り、ポーズを決める。
「ニジブルー!」
 続いて、ニジレッドと名乗った男の向かって右側。青い特攻服とモヒカンの男がポージング。
「ニジグリーン!」
 レッドを挟んで反対側では、緑のモヒカン男が。
「ニジイエロー・・・」
 静かに名乗ったのは、右端の黄色いモヒカン。身の丈3メートルを越す巨漢だ。
「ニジパープル!」
 左端の紫色のモヒカン男が、なぜか女っぽい仕草でポーズを決める。
「我ら、5人揃って・・・」
「「「「「虹色戦隊!ニジレンジャー!!!」」」」」
 レッドの掛け声にあわせ、五人が揃って名乗りを上げると同時、その背後で5色の爆発が巻き起こる。その光景に、
「・・・」「・・・」
 二人は絶句していた。
「悪党どもめ!その馬車には盗んだ宝石が積んであるんだろう!」
 レッドが二人を指差して叫ぶ。
「いや、これから村まで護送するんだけど・・・」
「嘘をつくな!我らの正義レーダーがばっちり反応しているぞ!」
 アリシアの言葉をブルーが遮り、さらにグリーンがそれに続く。
「子供だからといって、騙されないぞ!・・・だ、騙されないんだからな!」
 なぜかいまいち不安げだ。
「ニジレンジャーなのに、なんで五人なの?」
「いや、今それツッコむとこじゃないから・・・」
 未羅の素直な疑問に、アリシアがツッコむ。が、レッドは律儀に答える。
「何を隠そう、俺たちには友達が少ないからだ!」
 なぜか堂々と、胸を張って。「ともかく!」と仕切りなおす。
「その盗んだ宝石をおとなしく置いていくなら、命は助けてやろう!」
「あたしたちに逆らうと、痛い目見るわよ?」
 パープルがレッドの言葉を継ぐ。それを聞いたアリシアは、深いため息。
「なんかもう・・・説明するだけ無駄な気がしてきた」
「戦うしかないの?」
 未羅の問いに、アリシアも頷く。
「しょうがないよ・・・御者さん、危ないから下がってて」
「・・・」
 御者は無言でその場を離れる。それを合図としたかのように、ニジレンジャーが崖から飛び降りる。
 戦いが始まった。



(相手の目を見て・・・いまなの!)
 グリーンの振り下ろした緑色の釘バット―ニジブレードと言うらしい。それぞれ自分の色の釘バットを持っている―を、半身を捻って回避、手にした姉とお揃いの仕込み箒で胴を薙ぐ。
(当たった・・・!)
 僅かに装束を切り裂いただけだったが、その剣は確実に相手を捕らえていた。
(アリシアちゃんの言ったとおりなの・・・)
 戦闘前に、アリシアは未羅にこう告げていた。『戦うときは、相手の目を見るんだって。そうすれば、相手がどう動くかわかるから。あとは、体が自然に動くのに任せればいい。って、焔の受け売りなんだけどね』と。実戦経験の乏しい彼女にとっては半信半疑だったが、確実に効果はあったようだ。
 安心したのもつかの間、右から振り下ろされた青いバットを、箒で受け止める。力押しされる前に重心を移動。攻撃を流す。
 僅かに出来た隙に、少し離れたところで三人と対峙するアリシアに視線を流す。
「このっ!」
 気合一閃。パープルの肩口にメイスを叩き込む。流れるように柄頭をレッドのどうに打ち込み、半身を捻る。と、その瞬間黄色いバットが、先ほどまでアリシアの体があった位置を貫く。
「・・・三人相手はやっぱりきっついなぁ」
 メイスを構えなおし、一人ぼやく。焔に手ほどきを受けているとはいえ、大の男3人を相手に一人で立ち回るのは、いささか無理があった。
 息つく暇もなく、レッドとパープルが左右に展開。同時攻撃を仕掛けてくる。
(速いのは・・・)
 二人の行動・攻撃速度を一瞬で判断。武器を振り上げがら空きになったパープルの胴体をメイスで突き、身体を反転。裏拳の要領で逆サイドのレッドを薙ぐ。その視界に入ったのは巨大な影。
「アリシアちゃん!後ろなの!」
 未羅の叫びに振り返ると、黄色いバットを振り上げたイエローが立っていた。
(間に合わない・・・!)
 思わず目を閉じる。一秒、二秒。三秒経っても、来るはずの痛みと衝撃はなかった。恐る恐る目を開けると、そこには濃紫色のローブを御者が立っている。ローブから伸びた白く華奢な右腕が、イエローの手首を掴み攻撃を止めていた。
「・・・ぬん!」
 イエローは一瞬驚くが、押し切ろうとさらに力を込める。が、まるで時間が止まったかのようにビクともしない。
 御者が軽く右手を捻ると、イエローの体が反転。脳天から地面に叩きつけられる。
「いまの・・・」
「き、貴様、いったい何者だ!」
 驚愕したアリシアの呟きと、レッドの叫び。それに応えるように、御者はローブに手を掛け、脱ぎ捨てる。
 後ろで束ねられた、腰まで届く美しい黒髪。膝までを覆う漆黒の外套と細い四肢。闇より深い黒の双眸を湛える顔立ちは美しく、ともすれば女性と見紛うその姿は・・・
「焔!?」「焔さん!?」
 学園で別れたはずのアリシアのパートナー。村雨焔だった。
「まずまずだが・・・詰めが甘いな、アリシア」
「え・・・ちょ・・・なんで・・・?」
「焔さん、別の任務に行ってたはずじゃないの?」
 驚きのあまり言葉の出ないアリシアに代わり、未羅が尋ねる。
「話は後だ。まずは・・・」
 焔の視線の先、突然の増援に一箇所に集まったニジレンジャー達は、焔を指差し叫ぶ。
「あ、あなた、いったい何者なのよ?」
「そ、そうだ!か、隠れてるなんて、卑怯じゃないか!」
「えーい!うろたえるな!一人増えたところで所詮三人。我ら五人の敵ではない!」
 レッドの叫びに、焔は喉の奥で笑う。
「ふふ・・・五人?四人の間違いだろう?」
 焔の言葉に、その場の全員の視線が一箇所に集まる。地面に突き刺さったまま、ピクリとも動かないイエローに。3メートルを越す巨漢が、たった一撃で気絶させられていた。
「そして・・・これで三人だ」
 その声は、ニジレンジャー達の輪の中から響き、同時に青いモヒカンが倒れる。
 驚愕に震える男たちの間を悠々と抜け、焔は未羅たちの元へと戻る。
「今の、どうやったの?」
「連中があのでかいのに集中してる間に、青い奴に手刀を落としただけさ」
 未羅の疑問に、さも当然と言わんばかりに答える。
「さて・・・アリシア、未羅。赤いのは俺が持つ。残りは任せるぞ。・・・やれるな?」
「もっちろん!」
「や、やってみるの!」
 焔の問いに、二人が応える。そして、

SS企画 ―第三章―

第三章 ―ヌシ様現る― 【護衛・調査班】

「ありがとう、お嬢ちゃん。楽になったよ」
 そう言って、壮年の男性が柔らかい笑みを浮かべる。左腕の傷はすっかり塞がっていた
「どういたしまして。他に、怪我をしてる人はいない?」
 そう呼びかけるティアの周りには、怪我をした村人と、治してもらった村人でごった返していた
「これは・・・矢傷だね。、いつ、どうやって受けたか、教えてもらえませんか?」
 集まった人々の傷の具合や、受けた状況などを聞いて回るのはエドウィン。幸い、怪我人は男性が多いので、緊張することもないようだ
「あぁ、この間、ヌシ様が現れた際にね。たくさんの炎とか矢とか石とかが飛んできて、大変だったんだよ」
「矢や石・・・ですか?」
 村人の答えに、エドウィンは眉を顰める
「そうだよ。あそこの畑や、あの家なんかも、全部ヌシ様のお怒りでああなってしまったんだ」
 村人が指し示すのは、石だらけで荒れてしまった畑や、半焼した家。
「あの、ヌシ様って、どんな姿なの?」
 一通り治療を終えたティアが聞くと、
「あぁ、ヌシ様は・・・」
「大きな蛇のような姿をしているらしいわよ」
「といっても、わしらですら見たことはないがの・・・」
 周囲の村人たちが口々に答える。
「統合すると、ヌシは蛇のような姿をしているとされ、霧が立ち込めるときに現れるとされているようだ」
 突然の声に、その場の全員が振り返る。心底面倒くさそうに歩きながら、リアンは続ける。
「収穫祭の夜に捧げられる食料は、一家族が数週間は食いつなげるほどの量だ。それらが一夜にしてなくなる事から、主の存在は信じられているようだな」
「リアンさん、どうしてここに?」
「おまえらの帰りが遅いから、我がわざわざ出向いて聞き込んでやったのだ」
 驚くエドウィンの問いに、リアンが答える。
「んっと、そんなにたくさんの食料がなくなるってことは、森の動物でもなさそうだし・・・やっぱり、ヌシ様ってほんとにいるの?」
「存在の是非はともかく、不可解な行動であるのは確かだな。我が思うに・・・」
 ティアの疑問に答えようとしたリアンが、言葉を切る。その周囲には、霧が立ち込め始めていた。



 深い霧が立ち込める中、たくさんの人間が蠢いている。ある者は立ち竦み、ある者は物陰を求めて惑う。だが、それら幾重の瞳が見据えるのは、霧の中のただ一点。浮かび上がった、黒い影。その姿は高く天へと伸び、大木の幹のようだ。その頂点、頭と思われる部分には、二つの剣呑な光が宿っている。その姿はまさに、巨大な蛇であった。
「我への貢物はまだ届かぬか?」
 突如として遠雷のような声が響く。その声に、村人の一人が跪き、怯えた様子で答える。
「も、もうしばらくお待ちを、ヌシ様!いま、宝石を取りに行っておりますので・・・」
「ならぬ!我の怒りに触れればどうなるかはわかっておろう?今すぐ貢物を持てい!」
「そ、そのように申されましても・・・ギャッ」
 答えた村人の肩を、拳大の石が捉え、痛みにうめく。
「我はこの湖のヌシである。口答えなど、断じて許さん!我が怒りを知れい!」
 言葉と共に、影の周りにたくさんの炎が浮かび上がる。
「危ない!みなさん、逃げて!」
 とっさに叫んだのはエドウィン。剣を抜き、先ほど倒れた村人に飛来した石を砕く。
「立てる?はやく、向こうの物陰に・・・」
 その隙にティアが、手早く村人を治療し避難させる。
「ふむ・・・」
 静かに立ち尽くすリアンは、火術を展開し、自分に飛来した数本の矢を焼き払う。
 右往左往する村人たちを背に、三人がそれぞれの武器を構える。それを目掛けて、石が、矢が、火球が飛来する。
「如何せん数が多いな・・・万能なる力よ、我が手に集い敵を穿て。雷術!」
 リアンが広範囲に発した稲妻の弾幕が、その大半を撃ち落す。残った物も人や家のない場所へと落ち、被害は出ない。はずだった。
 それに気づいたティアが、とっさに走り出す。その視線の先には、逃げ遅れたのか、喧騒に怯え、蹲ってしまっている5歳ほどの小さな子供。そして、それに向かって迫る火球。
「大丈夫?怪我とかしてない?さ、早く・・・」
 炎よりも先に追いついたティアが、子供を抱き起こし、逃がそうとする。だが、その眼前にまで炎は迫っていた。逃げられない。そう思い、せめて子供だけでも守ろうと、その小さな体を抱きしめる。
「うおああああああああ!」
 咆哮と共に、エドウィンがバーストダッシュで疾走。颶風となり二人の前に立ちはだかると、炎を剣で受け止める。カルスノウトに込められた魔力が炎を徐々に霧散させていく。だが、
「ぐっ!」
 完全には止めきれず、余波が彼の身を焦がす。致命傷ではないが、決して軽くもない傷に、エドウィンは片膝をつく。
「だ、大丈夫!?」
「俺のことはいいから!早く、その子を!」
 負傷したエドウィンを癒そうとするティアを制し、子供を逃がすように促す。
「ふははははは!我が怒りを思い知ったか!さぁ、手早く貢物を用意するのだな」
 再び遠雷のような声が響き、霧と共に影が消え失せていく。
「待て・・・ぐっ・・・」
 エドウィンが立ち上がり追おうとするものの、痛みに呻き、再び膝をつく。その間に、霧と影は完全に消えてしまっていた。
「ふむ・・・妙だな」
 エドウィンを癒すティアの傍で、周囲を見渡していたリアンが呟く。
「妙?」
「影はまったく動かず飛び道具のみの攻撃・・・それも物体や炎を使った直接的な・・・しかし形跡は・・・」
 ティアの疑問を無視し、リアンが一人ぶつぶつと呟いている。そんなときだった。
「おーい!宝石が届いたぞー!」
 村人の、そんな声が響いたのは。
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